「分かち合い」の経済学
- 作者: 神野直彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/04/21
- メディア: 新書
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はじめに
民主党ブレーンである神野先生の本。
北欧の労働政策、社会政策の概要など。
ポイント
・ポイント1 新自由主義の弊害
新自由主義により格差が拡大し、貧困が広がっている。
北欧のように「オムソーリ(社会サービス、悲しみの分かち合い)」「ラーゴム(中庸)」を目指すべき。
・ポイント2 日本の実情
日本は企業・家族・共同体として機能しており、政府の社会保障は大きくなかった。05年の社会支出を見ても、米に次いで支出割合が少なく、ヨーロッパ諸国とは相当の差がある。
95年にスタインモが作ったジニ係数によると、財政介入前と介入後の変化率が最も低いのは日本であり、政府は十分に小さかった。
06年のOECDによる調査でも、教育機関への公的支出の割合は27ヵ国中下から2番目の低さ。
・ポイント3 分かち合いの思想
競争原理から協力原理へ。
コミュニティでの分かち合いが重要。島根県雲南市の海潮地区の例。
社会システム(コミュニティや非営利組織)が重要。
スウェーデンではハンソン政権が世界恐慌の際に「国民の家」としてミュルダール(経済学者)の完全雇用政策、メッレル社会大臣の労災法・国民皆保険・失業保険制定。高賃金維持政策をとった。
貧困者に限定した現金給付を手厚くすればするほど貧困が溢れる(コルピの再分配パラドクス)。米英が好例で、日本は米英に比べるとジニ係数は低いがヨーロッパ諸国に比べると高い。サービス給付をする国家の方が貧困率低い。垂直的分配の現金給付ではなく、水平的分配のサービス給付(教育の無料化など)で対応すべき。
生活保護を受給しているか否かで生活に差が生じるようになれば、貧困を装って受給する人間も出てきて生保へのバッシングが起き、機能不全になる。サービス給付ではこのような問題はない(幼児の振りをして幼稚園に入ったり、老人の振りをして老人ホームに入ったりしない)。
・ポイント4 財政について
財政赤字は度重なる法人税・高所得者の所得税減税によって創り出されたもの。
アダムスミスの自由主義国家論→ドイツ財政学の大きな政府、ワグナーの福祉国家、ケインズ経済学→シカゴ学派による新自由主義の変遷。
スウェーデンは大きな政府だが財政黒字で高経済成長率。
小さな政府で経済成長は迷信、財政支出も抑制できない。分かち合いを否定する小さな政府論だと社会統合に費用がかかり、カリフォルニア州では警察費が教育費を上回る勢い。
新自由主義のトリクルダウンは「富は使われるために所有されるもの」「欲には際限がある」という前提で成り立つが、この前提はいずれも誤り。
アダムスミスの自由主義論は、強固なコミュニティと市場経済に依存しない生活様式が前提にある。
・ポイント5 労働市場について
非正規労働者問題について。同一労働同一賃金、正規と同じ社会保障、職業訓練の強化が必要。
ヨーロッパも大陸モデルとスカンジナビアモデルに分かれる。スウェーデンのようなスカンジナビアモデルは産業構造の転換を目的として雇用の弾力性が高い(解雇が比較的容易)。成長産業への労働者移行政策支出もGDP比で大きい。大陸型は旧来産業の捕われてしまっており、介護や育児などの社会サービス給付が不足している。
デンマークの提唱するフレキシキュリティ(労働市場弾力性と生活安全)が重要。解雇を容易にし、失業保険を手厚くし、再教育・訓練を積極的に行って成長産業へ人材を移す。
リカレント教育(生涯教育)が重要。
感想
でかい組織(規模的にも人口的にも)は自由主義にならざるを得ないし、小さい組織は福祉主義を志向できる気がする。
これって自治体でも企業でも同じだと思う。
北欧って解雇が比較的容易とよく聞くけど、それはセーフティネットと一体のものなんだな。