NHKスペシャル 3.11 あの日から1年 南相馬 原発最前線の街で生きる

昨日の原発マネーが面白かったので、今日も見た。
結論としては、今まで見た原発関連のドキュメンタリーの中で、最もいい作品だった。
取材対象の声をなるべくそのまま流し、独特の間と、人の表情を追う構成。

【内容】

南相馬に残った老夫婦
50人100人いる避難所で安眠なんてできないと思いますよ。
我々老人は先が見えてますから。長生きしたいと思わないし。
終着駅に間もなく着く。


○飲食店店主
娘の結婚相手は福島第1原発に行ってる。別れなさいともいえない。
相手は100ミリシーベルトは浴びてる。それでちゃんとした子どもができるのか。

○酪農家
士農工商知ってるか?一番ひどいの知ってるか?(商ですね)
でも、逆でしょ。商がトップで、武士が2でしょ。
農が一番下なんですよ。
その一番下で生活してる人間が、何を言ったって誰も聞いてくれないの。
同じ人間で、東電の社長が言えば、国が動くんだ。
ダメだ、涙出てきた。
いいや。

○スナックの客
今日ラジオで聞いた。月に行った人が、放射線をすごく浴びる。でも、長生きしてる。甲状腺がんが増えるとか、嘘だと思いたい。

○タクシー運転手
かわいそうですよね、ひまわり。
セシウム取るためだけに植えられて。

○農家
(田んぼを耕さないと1年で荒れる。だから自分で食べる為に米を育てていた。しかし、市やJAは、補償を勝ち取るためには全ての農家が足並みを揃えて作付けをやめるべきだと説得した)
もう終わりだ。こんなに立派になって…。せっかく植えたのになあ…かわいそうに。
何もええことねえ。夜になるといろいろ考えるべさ。このまま死んだ方がええて。

○電力施設で働く人(父親が原発作業員派遣業を営む)
子どももう一人欲しいですけど、福島第1原発線量高いじゃないですか。だからもしものこと考えると、あまり行きたくないな、とオヤジには言った。どうしても仕事無ければ行くしかないけど…。どうしようもないすね。

○成人式後の飲み会
(女性)
子どもも産める年だし。
結婚だって、二十歳になったら、勝手にしていい年だし。
なのに、そんな心配にかられて、落ち込んだ何だって、考え込まないといけないの?
人生終わったもんだって、期待してないし。
先輩も、放射線が怖いから産めない、(子どもを)おろしに行くって。
何でそんな自分の体痛めて、怖いから、子どもにも悪いけどって、子どもをおろしに、なんで行かなきゃならないの?
精神的にも、体的にもくっぺよ。
なんでそうやって悲しまなきゃなんないの?苦しまなきゃなんないの?
何でさ、そういう、普通に何でもなかったら、その子も産まれて、その人達も普通に結婚して幸せな家庭築いてさ。
何年後かに幼稚園入れて、小学校入れてってやってんのに、何で苦しまなきゃなんないの?
うちらはもう別に子ども産む気ないし。別にね。だからうちらみたいなのはどうでもいいけど、
何でそうやってさ、みんなが苦しまなきゃいけないの?

(男性)
最悪、楽しんで死のうと思って。
俺らは実験材料よ。

(女性)
ただのマウスだよね。
じゃあいてやるよ。子ども産んでやるよ。


○20キロ圏内から避難し、就職した人
1時間当たり4マイクロシーベルトですかね。高い人は20とかの人もいますけど。
やっぱり何か仕事する上では、復興の役に立ちたいというか。
(ふるさとを除染するために、青年は20キロ圏内へ向かった)

【感想】
言葉が無い。彼らと僕らを分けた違いは何だったんだろう。
多分、何も無かった。たまたま彼らが犠牲になった。

昨日の放送で原発立地自治体に多額の原発マネーが流れ、地元が潤っている話が出ていた。
それを見ていて、「ほんとどうしようもない構造だなあ」と思っていたのだけど、今日出てきた人達を見てると、「この人達と自分達は、一体何が違うのだろう?」と思ってしまった。

彼らは原発があるということが所与の条件であって、その下でごく普通に暮らしていただけなのだ。
僕が同じ状況下でも同じような選択をするだろう。
だって、基本的に日本の地方都市なんてどこに住んでもみんなそれなりに幸せや不幸せを感じながら暮らすものなんだから。
彼らと僕らが違うのは、政治的判断により原発があった、ということだけ。

放送に出てくるのは、酪農家の人達、成人式を迎える若者、農家、タクシー運転手など。彼らは原発という政治判断にどれだけ関与し得ただろうか。どれだけその見返り(地域振興など)を獲得し得ただろうか。
多分、ほとんど関与できなかった、しなかったんじゃないか。
自治体で同じように暮らしている人達と大差ないんじゃないか。

そう思うと、彼我の差とは一体なんだったんだろうか、と思う。
世間は脱原発やその脱原発に対する批判など、実にかまびすしい。
しかし現実には、そこに住んでいる人は他自治体に住んでいる人と同じように暮らし、原発の影響を受けて悲惨な目に遭い、失業した人はその原因となった原発の作業員として就職することになる。

彼我の差など紙一重なのだ。
我々はいつでも、あっち側に行く可能性がある。
そう思ったら、今騒いでる議論ももう少し当事者意識を帯びるんじゃないかな。
鏡に映った世界を見ているようだった。


【スタッフについて】
放送後、取材・撮影者の菅井禎亮氏、ディレクターの国分拓氏が気になった。
検索してたら、次のエントリが見つかった。
国分 拓著『ヤノマミ』(NHK出版)
http://silhouette.livedoor.biz/archives/51616780.html
このエントリを見て、あの取材スタンスに納得がいった。

国分拓氏はウィキにも概要があった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%88%86%E6%8B%93

またこの二人の作品を見てみたいと思う。